1. X線のエネルギー(波長)

X線は光と同じ電磁波です。可視光に比べて波長が1/1000以下の領域の電磁波をX線と呼びます(※1)。

電磁波のエネルギーとは波長の逆数のことです。すなわち、エネルギー弁別はいわゆる波長の弁別であり、可視光におけるカラーフィルタによる波長選択と同じです。可視光のデジタルカメラ等ではカラーフィルタによってRGB(赤緑青)をそれぞれ記録することでカラー画像を表現できます。X線においても波長のフィルタリングができればこの波長領域のカラー化(波長情報の取得、活用)が可能となります。

一般的に工業用途や医療用とに用いられるX線源が放出しているX線の波長は100pm(ピコメートル)以下です。物体を構成している原子間距離よりも短い波長であるために、物質を透過する能力が極めて高い電磁波となります。このような極めて短い波長に対しては可視光で用いられているような波長選択可能なカラーフィルタは存在しないため、同様の方法では波長弁別はできません。

2. X線のエネルギー弁別

X線領域で波長弁別をするためには、光電効果(※2)によって発生した電荷の数が入射X線のエネルギーに比例することを利用する方法があります。X線の場合極めて高いエネルギーを有しているため、フォトダイオード内で数千〜数万個の電荷を生成します。例えば、CdTeセンサに60keVのX線が入射した場合、13,500個の電荷が生成され、120keVのX線が入射した場合、約27,000個の電荷が生成されます。このように、入射したX線とフォトダイオードの応答信号が比例関係にあるため、電荷を正確に数えることができればX線のエネルギーを知ることができます。この技術は、入射したX線のフォトン(光子)を数えるため「フォトンカウンティング(Photon Counting)」と呼ばれます。

CdTeセンサを採用した測定系で、エネルギー分解能2keV程度で放射性同位体(Am241)を測定すると以下のようなスペクトル(縦軸:放射線の数、横軸:放射線のエネルギー)を取得することができます。

図1: Am241のスペクトル

エネルギー弁別可能なX線カメラのデータ量

フォトンカウンティング方式ではX線の頻度とエネルギーの2つの情報を得ることができるため、その分の情報が多くなります。例えば可視光の場合にはRGBそれぞれの画像が取得して、加法混色の原理から色情報の計算によってフルカラーを実現しているため、以下の情報量となります。 可視画像のデータ量 = 8bit * 3色 * ピクセル数 一方で、X線の場合には必要なエネルギーは3つとは限らないので、例えば8エネルギーが必要となる場合には以下の情報量となります。 X線画像のデータ量 = 16bit * 8エネルギー * ピクセル数 ピクセル数については可視光の一眼レフカメラの場合1500〜6000万画素で、X線カメラの場合20x20cmで0.1mmピッチの場合で400万画素なので、可視光のカメラの半分程度から同程度のデータ量になります。

※図1のエネルギー分解能で取る場合、8エネルギーの部分が75エネルギー(150keV/2keV)になるので、可視光カメラよりも1桁ほどデータ量が大きくなります。

3. X線のエネルギー活用

X線エネルギー情報の活用方法の1つとして材料識別があります。X線CT撮像をする際にエネルギー情報を同時に取得することによって、原子番号と密度が算出可能となるために材料を直接的に識別することができる技術です。2つのエネルギーを取得することで実現できるためにDual Energy X-ray CT(DECT, DXCT)と呼ばれており、エネルギーを活用した撮像方法では最も盛んに研究されています。更に多数のエネルギーを活用する撮像方法をSpectral CTと呼び、放射線核医学の研究領域等で活用方法が報告されております。

X線撮像においてセンサが取得する値(ピクセル値)は図2に示すように、撮像方法によりその意味と情報の次元が変わります。いわゆる単純撮像であるX線(レントゲン)撮像では、ピクセル値は撮像対象の減弱係数と透過長をかけ合わせた値となるため、違う材料であっても厚みとの組み合わせによって全く同じピクセル値となる場合があるため、材料違いを見分けることはできません。CT撮像では、全周を撮像して再構成することによって断層像を得ることができるため、透過長の情報がピクセルそのものに分解されるために、ピクセル値は減弱係数を表すことになります。これによりレントゲン画像と比較すると減弱係数の異なる撮像対象の識別能力が格段に向上します。CT撮像にエネルギー情報を活用すると減弱係数を更に原子番号に分解することができます。この原理は前述の通り、すくなくとも2つのエネルギーで撮像することによって物質ごとの減弱係数の違を算出することができるために、原子番号を推定することができるというものです。

図2: それぞれの撮像方法における画素値の意味

減弱係数

原子番号推定のための計算の要となるのは減弱係数であり、これは材料ごとにそれぞれのエネルギーで異なる反応を示すものです。一例としてアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)の0〜300keVまでの減弱係数を図3に示します。

図3:各物質の線源弱係数

材料識別の例

DECTの原理を活用して、模擬爆薬の検知をした撮像例が以下の画像です(図4)。左図のCT像(減弱係数のマッピング)ではどの物体も画素値に大きな違いはなく粗密しかわからないですが、右図の密度(電子密度)とすると爆発物(模擬爆薬)だけが明確に電子密度が違う事がわかります。

図4: 材料識別の例(危険物検知)

参考文献

※1:光マップ(文部科学省)

※2:光電効果(Wikipedia)

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